ここ数年ですっかり形のないものが身近になり、電子決済を使いこなし、配信で舞台などを見ることも多くなった。新しく発行された紙幣も数週間は実物を見なかったし、五千円札に至っては現在も手に取ったことがない。
劇場や映画館で作品を見た後は周りの観客たちの感想が耳に入って、自分の感じたものが塗り潰されそうになることがある。数年前にあるオペラを鑑賞した時、帰るために出口に並んでいた人が「演奏していた楽器の音がちゃんと当たっていなかった」といった趣旨のことを話していたのを聞き、物語の感慨そっちのけで気になってしまったことがある。自宅で完結する配信であれば、誰の言葉も聞かず自分の感想に浸れ、考察も自由に出来る。しかしやはり生で見る舞台の迫力も捨て難い……と、完全な電子化には振り切れていないのが実情だ。
家族の中にはスマートフォンでスケジュール管理をしている者もいるというのに、私はいまだに手帳に頼っている。創作活動の予定を記録するものは既に来年の分を買い、ざっくりとした見通しを立てている。寝る前の日記も手書きだが、私はとにかく字を書くのが下手だ。タブレットで小説の見直しをする際にタッチペンで書いたものが読めず、直すはずだったのに直せなかったことが割とある。仮に後世で誰かが私の字を読むようなことがあれば、苦戦すること必至だろう。一時期は書道教室にも通っていたのに改善されていない。ペンを持つ握力が弱いからか、速く書こうとするからか、今はもう諦めてそのままにしている。